TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第5回 滋賀県近江八幡市・御猟野乃杜 賀茂神社 足伏走馬 その2

馬場の両サイドにはびっしりと観客とカメラマンが今か今かとスタートを待つ。果たしてどんな競馬がくり広げられるのか?

独特の雰囲気

午後2時過ぎ。バッグのある馬場にもどると、埒代わりのロープの外は、すでに観客で埋まっていた。1000人ぐらいはいるだろう。

「ただいまより馬場にて足伏走馬を行います」

午後3時、アナウンス。

コースは上賀茂神社よりかなり広いが、地面は土。おまけにゴールを過ぎて10mもすればコンクリートの舗装道となる。馬が止まらずに突っ走ったらどうなるのだろうか? コンクリートはすべりやすく、転倒でもすれば人馬ともけがにつながる。

「こんなんでいいのだろうか」

その時は疑問に思ったが、後に実際の競馬を見て納得した。

馬場見せのために七頭が入って来た。いったんスタートからゴールへ向かい、折り返してスタートへもどる。いずれも常歩か速歩。入れ込んでいる馬はいない。これから競馬が始まるとは思えない雰囲気だ。

馬装に特別なものはない。乗尻(騎手)は裃だが、かなり簡略化されている。レースはトーナメント方式で決勝まで計6レース。いずれも2頭によるマッチレースだ。このあたりは古式競馬の伝統に則っている。

スタート地点にある「出馬の木」。

出走馬が走路に入ってきた。

レースが始まる。ただし、スピードはかなり抑えめ。

神事としての競馬

全馬スタート付近にもどり、最初の2頭が引き出された。

「どん」

太鼓の音がスタートの合図のようだ。2頭が猛然とダッシュする…と思いきや、なんとキャンター。それもかなり遅い。なかなかカメラの前にやってこない。途中で止まってしまいそうなほどたよりない。

なんだか拍子抜けだ。乗尻も馬を追うでもなく、鞭を使うわけでもなくただ乗っているだけ。

「ただいまの勝負は○○号の勝ちです」

このスピードで勝負も何もあったものではないが、トーナメントである以上、勝ち負けは決めるようだ。

2レースめ以降も状況は変わらない。考えようによってはこれくらい確実な安全対策はない。これならゴール板を過ぎれば馬はピタリと止まり、仮に走路を外れても、観客もさっと身をかわせる。ただこれを競馬と呼んでいいのかどうか…。なるほど、だから「走馬」なのか。得心した。

神事ならこれで十分かもしれない。そう考えれば、勝負が前提なのではなく、神事として人馬ともに無事に終えることの方が重要だ。仮に大きな事故が起きれば神事は続けられれず、伝統は途切れてしまう。

これはこれで大切な馬文化。古き良き時代の日本人のおおらかな日本の祭りともいえる。賀茂競馬のようなエンターテインメント性満載の行事があれば、こういう儀式もある。多様性は大事だ。

馬がいて、それを見守る人がいる。この足伏走馬も800年にわたって続けられてきた。そのこと自体に価値がある。

こんな競馬があってもいい。

迫力は今一だが、あくまで神事。

トーナメント方式で勝ち馬が決められていく。

無事全レースを終え、神事は終了した。