TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第1回 山梨県富士吉田市・小室浅間神社 その2

神馬の飾り付けが終わり、いよいよ祭事が始まる。神馬舎から出された馬と人は街を一周したのち、神社に戻り、あらためての参拝となる。

街を行く神馬の一団

すべての準備が終わり、廐舎前の馬場で軽い乗り運動。乗り手となっているのは、さっきまで馬の飾り付けをしていた人たちだ。襦袢の裾をからげ、股引に足袋という出で立ち。「奉仕者」と呼ばれるこの人々は、お祭りのために一週間にもおよぶ共同生活を送り、その間、厳しい潔斎を経て神事に参加している。

馬に乗せられている鞍は和鞍。鐙もコの字形をした和鐙。その形から舌長鐙ともいわれる。古式ゆかしい和式の馬装だ。馬の頭部からうなじにたれる紅白の手綱が華やかさを演出している。

「そろそろ、行くぞ~」

かけ声とともに馬場を出る。それぞれの馬に二人の引き手がつき、さらに全体の先導役が一人、しんがりが一人。交通整理の人数まで入れると総勢10人以上の一団だ。

小道を抜けると幅6mほどの二車線の道路に出る。左の車線を粛々と進む。両サイドは地元の商店街。祭りの日はどの店も閉店しており、人影はほとんどない。時折通る車から、ドライバーが首を出して一行を眺める。

先導役が、肩から下げた巾着袋に手を入れ、清めの塩を取り出してパッと撒く。特にかけ声があるわけではない。静かに粛々と進む。

街を行く神馬一行。

二礼二拍手一礼

20分ほどで街をひと周りし、再び神社に戻ってきた。先ほどより人は多いが、いずれも背広を着た関係者か、近所の人ばかり。観光客らしき人影は見えず、広い境内ではこじんまりとした人数に見える。

神馬一行は、注連縄で四隅を囲んだスペースに到着。馬を入れ、乗り手はここで下馬。そのまま馬を引き、みな本殿前に集合。

一堂、所作にならって二礼二拍手一礼で参拝。頭を垂れたところで神主が御幣をふってお祓い。雅楽の調べが滔々と流れ、厳粛な空気が漂う。参拝が終わると二匹の馬は左右に分かれ、 本殿前の簡易な馬房に繋がれた。 本殿右の馬房には「朝馬」、左のそれには「夕馬」と書かれた看板がかかっている。二頭には個別の役割があるのだ。

その後、関係者、奉仕者全員が本殿にあがり、引き続き祈祷を受ける。

街を一周したあと、神社に戻る。

馬と一緒に本殿を参拝。

神事の舞台

神社近くの参道には東西に一直線にのびる幅5mほどの道がある。東を背に西を見ると50mほどでT字路になって行き止まり。道の左側はシャッターの降りたガレージ群。道の右側は民家の戸口。戸口から1mのところに、高さ1mほどの柵。競馬場の埒に似ている。地面には細かい砂が敷き詰められている。

9月の大祭は「流鏑馬祭り」として知られている。どうやらここが流鏑馬の会場となるようだ。道の東側が境内へと続いているところを見ると、そこがスタート地点で、T字路の行き止まりがゴールなのだろう。

弓は右手でひきしぼる。したがって馬上から射る場合は進行方向左が射ちやすい。ガレージ側のシャッターがすべて降りているのはそのためだろう。

ここの流鏑馬の特徴は、矢が的に当たるかどうかではなく、 砂に残った馬の蹄跡から吉凶を占う「馬蹄占い」にあるとのこと。 そう考えれば占いと矢を射ることとは関係がない。でも、騎射しない流鏑馬なんて、成立するのだろうか?

流鏑馬の会場。シャッターを下ろしたガレージ群が異様。