TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第10回 長野県塩尻市・高ボッチ競馬場 高ボッチ高原観光草競馬大会 その2

信州の風光明媚な高原にある競馬場では「高ボッチ高原観光草競馬大会」が開かれようとしている。腕に覚えのあるアマチュアジョッキーたちが難コースを相手に日頃鍛えた技を披露する。

山の中の草競馬

真夏の太陽も高原の涼風にはかなわない。蒸し暑さもなく、馬にとっても観客や参加者にとっても快適な環境だ。午前中は主に予選。午後から決勝。今日1日で全26レースが行われる。

ファンファーレが鳴り響き、レースが始まった。サラブレッドの競走でも意外にスピード感がない。小回り、急坂と加速する余裕がないせいだろう。その分、安心して見ていられる。少なくとも、自分が見たレースでは落馬はなかった。

また、経験的なものだが、左回りの方が騎乗者としては乗りやすい。コースを回るときは埒のない側にふられるので反対側に体の壁を作る必要があるが、利き手の関係からか、右側の方が壁が作りやすい。そのせいだろう。

1レースの出走頭数は5〜6頭。コースの幅は狭く、並走すれば外埒いっぱいに広がって、団子状態となる。スタートダッシュとともに、内埒いっぱいにコースをとった馬が圧倒的に有利。スタート直後の順番でそのままゴールというシーンが少なくなかった。

観客はレースを楽しんでいる。コースを囲む斜面にシートを敷き、テントを張り、バーベキューをやっている家族連れ、団体がたくさんある。いかにも山の中の草競馬場といった独特の雰囲気が漂う。古き良き村の行事から発展した馬文化のひとつといえるかもしれない。

コーナーに陣取り、各々のスタイルで競馬を楽しむ観客。

白熱したレースが続く。

真剣勝負に湧く

レース自体は比較的和やかに進んできたが、第14レースを前に空気が変わった。800mのポニーレース「日本中央競馬会杯・全国ポニー競馬選手権長野地区予選決勝レース」が始まる。ハロンがけの道具がついた大型のトラクターが荒れた馬場をきれいに整備する。なんといっても東京競馬場へと続く真剣勝負の道だ。

パドック代わりの広場に行ってみると、小4から中1の子どもたちが緊張した面持ちでポニーに乗って周回していた。見つめる両親たち。子ども以上に緊張している姿が、微笑ましい。参加は4頭だが、出場枠はひとつ。

スタート。2頭の馬が勢い良くダッシュ。ほぼ並走している。後続の2頭もこれに続く。最初の1周は先行2頭がレースを引っ張る。

1周目の4コーナーを回ったところで先頭馬が後続馬をつきはなすが、1周目のホームストレッチで後続から1頭が抜け出し、先頭を行く馬に追いすがる。2週目の向正面で先頭馬をとらえそのままゴールした。まくりが効いた感じだろうか。なかなかの手綱捌きだ。白熱したレースに観客から盛んに拍手が送られていた。

2020年にコロナ禍に襲われ、大会は2019年を最後に途絶えた。その後も、参加馬の減少、高原へと続く道が豪雨災害により分断されるなどのアクシデントがあり、2024年、およそ70年に及ぶ大会に正式に幕を閉じた。

ユニークな場所で行われる全国屈指の草競馬大会だっただけに廃止が惜しまれる。復活を切に願う。

ジョッキーベイビーズの出場権をかけたレース。

高ボッチ競馬場の全景。再び草競馬が行われる日は来るのだろうか?