第10回 長野県塩尻市・高ボッチ競馬場 高ボッチ高原観光草競馬大会 その1

古来、信州は良馬を産する「駒の里」として知られていた。鎌倉時代の名馬もここから出ている。そんな地域に全国でもユニークな草競馬場があり、2019年まで草競馬大会が開かれていた。その模様を紹介する。
高原の一角
長野県の諏訪湖を北上し、松本市へと向かう国道20号は、途中塩尻峠という難所を通る。ここを右に折れ、山間の隘路を車で20分ほど走ると、急に開けた一角に出る。「高ボッチ高原」だ。四方を山に囲まれた風光明媚なこの場所に「高ボッチ競馬場」はある。
「高ボッチ」の地名は、昔話に登場する伝説の巨人「ダイダラボッチ」に由来する。富士山や琵琶湖を作ったという国づくりの神だ。ここ信州にも現れ、休息のために腰をおろした跡が高原の窪地になったという伝承が残っている。
高ボッチ競馬場はその窪地をトラックに利用している。埒に囲まれた左回りのコースは幅10mに満たない。1周は400mだが、アップダウンは激しい。正面と向正面では10m近い高低差がある。ほぼ完全な円形だが、直線部分は100mに足らず、コーナーの曲がりもきつい。
スピードは出そうもない。速いままコーナーに突入すると、遠心力で振られて簡単に落馬するからだ。コーナーリングの巧拙が勝敗を分けそうな、競馬場としてはタフなコースだ。

コースの向正面はホームストレッチより高くなっている。
日本一高い競馬場
草競馬は戦後、1952(昭和27)年に地元の乗馬クラブにより第1回大会が主催されている。2024年に廃止が決まるまで、全国の草競馬大会の中でも屈指の伝統を誇っていた。筆者が訪れたのは2016年8月に行われた第63回大会。高原は多くの馬運車と人、さらには観光客にあふれ、馬のいななきが辺りにこだましていた。
緑の森に囲まれ、バックには日本アルプスの山なみが見える。標高は約1600m。日本一高く、そして美しいコースといえる。
馬房がわりに仕切られた一角はすでに満杯で、森の斜面の木々の間に繋がれている馬もいる。ここ高ボッチ高原は国定公園になっており、無許可での伐採や植物の採取は許されていない。自然を生かした馬房というわけだ。ここでも引退した元競走馬が中心だが、中間種やポニーも混じっている。県内外から集まった馬の数は約80頭にも及んでいた。どんな競馬が繰り広げられるのか、楽しみだ。

山あいの木々を利用した自然の馬房。

木々の間につながれたポニー。