TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第9回 沖縄県沖縄市・琉球競馬 ンマハラシー その3

沖縄の民俗衣装を来た騎手。独特の馬装を施された馬たち。彼らはどんな競馬を見せてくれるのだろうか?

側対歩のレース

午後1時半。競技開始の時刻になった。埒に集まる人影は多いとはいえない。多くの人が埒から少し離れた屋根つきの休憩所から馬場を見ている。日差しがきつくてなかなか外に出てこられないようだ。南国独特の観戦風景となった。

紅白のタスキをかけた乗り手を背に、2頭の馬が馬場に入る。

「出走馬は●●クラブの○○…じゃなかった△△、いや□□かな?」

馬の名前が違っても笑いが起こるだけ。誰も気にとめない。なんとも和やかな雰囲気だ。

スタートのタイミングは乗り手に任されている。輪乗りを繰り返しながら、どちらからともなく声がかかる。

「いきましょう」

両馬の顔が正面を向き、スタート。駈歩の競馬のような砂煙はあがらない。2頭が速歩でゆっくりと進む。一方は与那国馬。小さな体でちょこまかと脚を動かす様は本当に愛らしい。乗り手の女性も知花織の絣にモンペスタイル。伝統に則った正式な衣装だ。

残念ながらきれいな側対歩は出ていない。歩様は2頭とも速歩のままだ。時折それらしくはなるが、側対歩とは言い難い。ただ観客に違いはわからないだろう。

折り返しの直線で赤の馬が若干駆けてしまった。速歩と駈歩では違いは明白だ。先にゴールしたのは赤の馬だったが、ジャッジはゴールまで速歩を崩さなかった白にあがった。先にゴールすることも大切だが、それ以上に歩様や騎乗姿勢が評価される。

「いや〜、途中駆けちゃったよ」

赤の乗り手が苦笑い。負けてもニコニコしている。勝っても負けても乗り手の顔には笑顔。見ている方も癒される。勝負とはかけ離れた世界だが、こんな競馬があってもいい。

スタートを待つ両馬。

速歩でゆったりとレースが進む。騎手の姿勢も大きなポイント。

次代へ繋ぐ

レースが進む中、小学生の乗り手が登場。子どもが小さな馬を操る様はかわいらしくて絵になる。すばらしい光景だ。

子どもの参加は重要だ。後に続く乗り手が育たなければ、せっかく復活した大会も続かない。速歩なら駈歩の競馬より比較的安全で事故も少ないはずだ。ジョッキーベイビーズほど本格的でなくとも技量を競うことはできる。馬に乗るきっかけとしてはいい方法かもしれない。

続いての登場は、陣笠に茶色の絣、股引きに足袋と独特の出で立ちの乗り手。久米島の乗馬クラブのオーナーとのこと。島の伝統的な農民の衣装と馬装が印象的だ。技術も達者。ほぼ側対歩でコースを回ってきた。スピードもある。おそらく順調に勝ち上がるだろう。

ますます強くなる日差しにカメラを向ける手を止め汗をぬぐう。南国の競馬はまだまだ続く。

30頭の馬による15レースが終わり、2回戦が始まる。レースの合間を見て審判を務める古老のひとりに話を聞く。

「昔も2通りあって、農耕馬が出てくる村のお祭りと競走用の馬だけの競馬。今日のはお祭りの方だな。競馬はやはり一にも二にも速さ。だからといって途中で駆けると『ヤマトバシリ』と呼ばれ、馬鹿にされて失格。昔の馬と騎手はみんな側対歩ができたからね」

往時の競馬はやはり競馬だった。速さより美しさと聞いていたので意外な話に驚く。側対歩で美しく乗るのは、レースの前提だったのだろう。往時の技術がしのばれる。

レースは速歩で100m先にあるコーンを回って、スタート地点にもどる。

久米島の伝統的な民俗衣装を来て、馬を御す乗り手。側対歩が見事。