第8回 東京都府中市・大國魂神社 くらやみ祭り その1

漆黒の闇に浮かぶ馬体が街中を駆け抜ける「くらやみ祭り」の「競馬式(こまくらべしき)」。毎年5月のGWに東京・府中市で行われる。大勢の観客が、神社前の旧甲州街道の両サイドに広がり、馬の疾走を見守る。祭りの模様を紹介する。
馬とくらやみ祭り
くらやみ祭りは、武蔵野を代表する大祭だ。主催は府中の大国魂(おおくにたま)神社。約1900年前に創建された日本を代表する古社の一つ。祭りは、4月30日から5月6日まで行われ、その間、さまざまな行事が執り行われる。競馬式(こまくらべしき)もその一つ。一之駒から六之駒まで六頭の馬が神社前の道路150mほどを3往復する。古代、馬産地として多くの牧があった武蔵の地から優秀な馬を朝廷に献上するための選抜が行われた。その模様を起源としているという。
現在では、JRAが全面的に協力している。この神事に使われる主な馬は誘導馬など東京競馬場の馬たちだ。大國魂神社と東京競馬場は非常に近い。
馬はいずれも芦毛馬。すっかり白くなった毛並みが神馬の役を果たす。
くらやみ祭りと称されるように祭りは夜に行われる。江戸時代は街道の灯りを消し、夜の11時から翌朝にかけて行われた。神社の神様がお神輿へと移動する神聖な儀式なので、一般の人がそのお姿を見ることがないよう、くらやみの中で行うのだという。現在も午後6時ぐらいから11時くらいまでがメインの時間となる。

くらやみ祭りの競馬式にはJRAが全面的に協力している。
大学馬術部の学生が参加
夕闇迫る東京競馬場。開催日は喧騒に包まれるが、今は誰もいない。誘導馬などの厩舎となる隣接された乗馬苑の一角にだけ、煌々と明かりがついている。その周りを「JRA」と文字が入ったオレンジのジャンバーや法被を着た十数人の若者が、馬たちの馬装を整えている。JRAの職員だけでなく、大学馬術部のアルバイト学生も混じっている。
東京競馬場にほど近いこの大学では、毎年、競馬式のアルバイトに馬術部がかりだされる。30年以上前、自分がいた大学馬術部でもあった。当時は祭りの雰囲気に舞い上がった人たちの間でトラブルが多く、学生アルバイトとしての参加は禁止されていた。今は警備も厳重になり、その手の問題は影をひそめている。準備の段階から大勢の学生が関わっているのだから、隔世の感がある。
今日の乗り手は6人。JRAの職員に馬術部生など、烏帽子に直垂と古式装束に身を包んでいる。いずれも普段から馬に接し、乗り慣れた人たちだ。それでも夜の街を馬で駆けるのは簡単ではない。いかに大勢の競馬ファンの前を歩く誘導馬でも、これだけ環境が異なると不測の事態も考えられる。何が起きても対処できるだけの技量が乗り手には要求される。
あたりは暗くなってきた。いよいよ祭りが始まる。

大学馬術部の学生アルバイトもオレンジのジャンバーを着て多数参加。

準備が整い、夜7時に出発。暗い中を馬房から出る。