第16回 北海道・別海町 馬事競技大会 その3
人がカートに乗り、速歩で進む馬を操るレースがある。西洋のチャリオット(馬の戦車)レースに起源をもつ繋駕レースだ。戦前はあちこちで見られ、馬事競技としては一般的なものだった。だが今や、日本ではここ別海でしか見ることができないレースとなってしまった。
繋駕とトロッター
2025年9月、北海道・別海町産業祭で行われた馬事競技大会の観戦に行った。
見たかったのは第10レースに組まれたトロッター繋駕2000m戦である。繋駕レース(正式には「繋駕速歩競走」)のある草競馬大会はおそらくここだけだ。貴重な馬事文化という点では「幻のレース」と呼んでもいい。
戦前は各地の競馬場で盛んに行われていたが、戦争が始まると「トロッターは軍馬に適さない」という軍部の指令によってトロッターの生産が減少し、レースも一時衰退した。しかし戦後は主に関西で復活。競馬が再開した頃は馬の数がそろわず、特に関西で苦戦したため平地競走の穴を埋めるべく、繋駕速歩競走が行われた。JRAで行われていたのもこのころだ。当時は平地競走の騎手免許とは別に繋駕速歩競走に参戦するための免許があった。兼業する者も多かったという。1960年代に入ると馬の数がそろい、平地競走が盛んになった。人気に陰りが見え、廃止の方向に舵が切られた。
1968年12月中京競馬場のダートコースで行われたのが馬券発売を伴う繋駕速歩競走の最後になった。以後は「愛馬の日」などにエキシビションとして行われる程度だ。

繋駕レースで使うカート。特注品だ。

ドライバーはカートに乗って馬をコントロールする。

繋駕レース。今や日本では、別海だけでしか見られないだろう。
ドライバーが操縦
繋駕レースのため、馬、人、道具を揃えるのは極めて難しい。
馬はトロッターという種類。体格的にはサラブレッドと変わらない軽種馬だが、名前の由来となる速歩専用のための馬だ(速歩は英語で「トロット」という)。速歩と聞くと、サラブレッドのイメージでは歩くよりいくらか速い、人間でいうジョギングの感じだが、彼らのそれは違う。時速40kmの速歩が出せる。サラブレッドのギャロップが平均時速60km、道産子で40kmだから、いかに速いかがわかる。
トロッターに繋駕車という人が乗るカートがつく。金属のフレームだけで作られ、見た目は華奢だが、重量は軽そうだ。なお騎乗者はジョッキーではなくドライバーと呼ばれる。
ドライバーは繋駕車に乗って馬を操作する。トロッターといえどもちろんキャンターもギャロップもできるので、制御が必要。速歩以外の走り方をすれば、即失格だ。独特のテクニックがいる。地元でもドライバーになれる人は数少ない。
レースを見た。通常のレースとは違った迫力がある。フランスなどではサラブレッドによる平地競走が行われるはるか以前、古代ローマ時代から盛んだった。繋駕レースはその流れを汲むものだろう。現代の日本では、いまやおいそれとはおがめない。貴重な馬事文化遺産だ。

コーナーリングはドライバーの腕の見せどころ。

馬(トロッター)は速歩のみで走る。それでも時速は約40km。

戦い終えて馬房へと戻る各馬。今年も繋駕レースができた満足感が漂っている。