第16回 北海道・別海町 馬事競技大会 その2
道東での馬事競技は、駆けのレースだけではない。一大酪農地帯でもある同地域では、トラクターなどが登場する以前、労働力の担い手は重種馬だった。農家で飼われていた重種馬による草ばんばも種目のひとつだった。
草ばんば
別海町の馬事競技大会2日目は、毎年、1日を通して草ばんばが行われる。その日、快晴の別海競馬場に集まった重種か重種の血が入った馬は全部で80頭あまり。お昼をはさんで全21レースが1日で行われる。もちろん同じ馬が何回か出ることもある。かつての「馬の王国」の歴史を引き継ぐ、なかなかの盛況ぶりだ。
コースは全長200mほど。第1障害と第2障害のふたつの障害があり、山場は第2障害。高さは人の背ほどだが、勾配がきつい。いっぺんに登り切ることは、重量があるとなかなかできない。
レース毎に引くソリの重量は決まっている。一般馬の場合、400kg~900kgとまちまちだが、いずれも騎手の重量を含む。騎手の重量は75kgと一律になっている。足りなければ、その分重しを載せる。
第1レース発走の1時間前、スタート付近で人だかりを見つけた。近づいてみると、どうやら検量の真っ最中。L字型のかね尺を手にした競技スタッフが馬の体高を測っている。「測尺」というのだそうだ。馬はいずれもポニー。ユニークな「ポニー輓曳(ばんえい)」に出走する馬たちだ。21レース中、半分はポニー輓曳だから、主役は彼らといってもいい。みな体は小さいがコロンとした体型で、いかにも馬力がありそうだ。重種が交配されているのだろう。体高は120cm以下と決まっている。体高があるということはその分馬体が大きく、力が強いということになるので、これについては厳格なのだろう。
ポニー輓曳に出走する馬の体高を特殊なL字型の「測尺」で測る。
ポニー輓曳。ポニーといえど重種の血が入った馬は力強い。
体高90cm以下のミニポニー輓曳というレースもある。懸命にカートを曳く姿がかわいい。
山を超える
スタート合図となるファンファーレが鳴る。ゲートが開き、重種馬たちがそりを引いて走り出す。第1障害はみな軽々とクリア。第2障害、坂下にかかる手前で騎手はいったん馬を止め、息を整える。十分に馬体に力を溜め、一気に解き放つ。馬は坂を駆け上がる。坂の頂上に頭、首、上半身と馬体が見え出すところがクライマックス。どの馬も首を伸ばし、前肢に力を入れる。重量に耐え、そりを引く。人間ならば必死の形相をしているところだろう。見ている方も思わず力が入る。騎手は長い手綱を余らせ、鞭のようにしならせて、掛け声とともに尻を叩く。励ましに応えようとする馬たち。ばんばの醍醐味がここにある。
「オラー、行けー」
気合いの入った声が秋晴れの空に響く。坂の途中でもがきながらも頂上をめざす馬たち。そりに乗った男たちは、後ろから必死に馬を追う。ときに手綱をしぼり、ときに手綱を緩める。馬の呼吸と動きに合わせた手綱さばき。これもまた、駆けの競馬とは違う人馬一体の姿だろう。
やがて頂上へと到達した馬たちは、一気に坂を下り、ゴールまで残り50〜60m、平らな砂地を進む。先頭で山を越した馬も、油断をすればここで後続馬に抜かれることもある。騎手は気を抜かせず、最後まで馬を追う。
白熱したレースが展開され、参加者、観客とも盛り上がる。草ばんばは日本独自の馬文化のひとつといえる。

スタートのための専用ゲートもある。

馬も人も最も力が入る第2障害。

障害を越えた後の直線での攻防。

ゴールの瞬間。