TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第15回 岩手県滝沢市・盛岡市 チャグチャグ馬コ 後編 その1

チャグチャグ馬コ当日。パレードに参加する各家は、早朝から準備に余念がない。親戚一同が集まり、忙しく立ち回っている。馬を準備する人、子供たちに衣装を着せる人さまざまだ。現場にお邪魔させてもらった。

玄関の「番馬」

本番当日の朝、盛岡市のホテルから隣の滝沢市へと車を走らせる。目的はチャグチャグ馬コに参加する家の取材。人づてに頼みこみ、朝の様子を見させていただけることになった。

山あいの集落を進み、中型の馬運車が駐車する、一軒の御宅の前で車を止めた。

この家は代々、お祭りに参加してきた。今年も親、子、孫と三代にわたっての出場となる。当日は親戚一同が集まって、ここから馬を見送るのだそうだ。

重種2頭が、玄関先に繋がれている。その様子は番犬ならぬ「番馬」。暴れる気配は一切なく、落ち着いた様子でいる。2頭は当日の朝、別の場所から運ばれてきた。

一般に重種はサラブレッドなどの軽種に比べおとなしいが、それにしてもピクリともしない。自分も多くの重種を見ているが、トップクラスの落ち着きようだ。これなら何十頭も馬が集まるイベントでもまず問題はない。

「どうぞ、あがって朝ごはんを食べていってください」

ご当主の誘いに遠慮なく家の中へと進んだ。食卓にはハレの日のご馳走が並んでいる。申し訳ないと思いながら、おいしくいただいた。

部屋はこれから馬や人に着せる衣装や鈴などの小道具であふれかえっていた。きらびやかな衣装のせいか、部屋全体が輝いて見える。どれも手入れが行き届いている。何代にもわたって大切に保管されてきたことがわかる。

子供たちは絣の着物に編笠。うっすら化粧もしている。可愛らしいことこの上ない。最も小さい子はわずか3歳。聞けば、お母さんもおばあちゃんも同じ頃から乗り手として参加しているという。三代続く伝統の地域の祭りという感じだ。

壁には各年代のチャグチャグ馬コの写真が飾られている。馬上には同家ゆかりの子供たちがいる。親から子へ、子から孫へ、馬上の主が変わり、伝統が引き継がれていく。地元の習俗に根付いた馬文化が残っているのがうれしい。

玄関先につながれた馬たち。かつてはこんな姿が珍しくなかったはずだ。

家の中には馬に着せる装飾品が飾られていた。

お祭りには親子で参加。

早朝の厩舎

次に前日にもお伺いした大坪厩舎にお邪魔した。

滝沢市とは因縁がある。大学卒業間近で就職活動をしていたとき、同市の農協に就職しようと考えていた。たまたま知り合った人が農協のお偉いさんで就職を世話してくれるとのことだったからだ。馬に関して何かやっている場所がいいと思い、チャグチャグ馬コの同市を考えていた。パレードで馬が牽ければいいなと思っていた。

厩舎に着くと、牽き手の装束一式が用意されている。

「どうせなら参加してみませんか?」

と誘われていた。一も二もなく承諾。50年来の願いを果たすことができる。

「すいません、この頭絡、どうやってかけるんでしょうか?」

馬装中のスタッフから声が掛かる。装束もそろえてもらったし、ここは協力せざるを得ない。

その後車で10分ほど離れた南部曲り家の旧家に移動した。ここはここで、近隣の馬たちの集合場所になっている。すでに十数頭の馬が集まって準備が進んでいた。こちらは伝統的な装束に加えて、リボンあり、フリルありで、デザインに意匠を施したものも多い。

一緒に行列する当歳のとねっこたちにも衣装が施されている。こちらも幼子に負けず劣らず可愛い。

「この仔馬、何歳なのかなあ?」

「2、3才なんじゃないの?」

とねっこを見ながら話す法被姿の若い牽き手。思わず力が抜けた。

地域の祭りとはいえ、みんながみんな、「馬に興味があり、積極的に参加」というわけではないだろう。この手の会話もあちこちで耳に入る。馬についてまったく知らない若者も牽き手の中には結構いるようだ。伝統の力も少しずつ、衰えているのかもしれない。

南部曲り屋に集合した馬たち。

法被姿でカメラを向ける筆者(写真中央)。この姿だと自由に取材できる。

準備が整い、鬼越蒼前神社へと向かう。