TAW Thoroughbred Aftercare and Welfare

第14回 岩手県滝沢市・盛岡市 チャグチャグ馬コ 前編 その3

本番前日の鬼越蒼前神社には、馬や人だけでなく、観光客も集まる。当日に比べればゆっくりとお祭りの様子が見学できる。取材陣にとってもそれは同じ。その場で思わぬ出会いがあった。

競走馬絵画の第一人者

リハーサル時、鬼越蒼前神社の境内で、人の間を縫うようにして各馬に近づき、熱い視線を注ぐ見知った人物を発見した。声をかけるとびっくりされた。画家の長瀬智之氏だ。

長瀬氏は主に競走馬をテーマに描く油彩画家。ロードカナロアやキタサンブラックなど数々のJRA顕彰馬を描き、作品は競馬博物館にも飾られている。競馬ファンなら名前を知らなくても絵を見れば、「ああ、あの絵」とすぐわかるはずだ。その世界では、押しも押されもせぬ日本の第一人者である。

以前から見知ってはいたが、挨拶をする程度で親しく話したことはなかった。そんな人物がチャグチャグ馬コの現場にいる。お互いに来ているとは知らなかったので、偶然の出会いだった。

「実は以前から興味はあったのですが、機会がなくて…。やっと来ることができました」

英国で重種を見慣れた長瀬氏の目にも、祭りの衣装に身を包んだ馬たちは新鮮に映ったようだ。初めての訪問ということだった。

長瀬氏がチャグチャグ馬コの絵を描いてくれたら、その影響は大きい。祭事の価値はさらにあがる。作品はイベントのシンボルにもなりうる。

長瀬氏の絵といえば、競走馬がメインだが、今後、日本の馬祭事にも目を向けてみたいという。チャグチャグ馬コがそのきっかけになれば幸いだ。

鬼越蒼前神社に続々と馬と人が集まる。

参加者と観光客でごった返す境内。

関係者に話を聞く長瀬氏。

道端(みちばた)の出会い

リハーサル後半、馬と関係者は、神社近くの短い距離をパレードする。このときもカメラマンにとって絶好の撮影チャンスとなる。本番では人出が多くてここまで自由には動けないからだ。

「すいません、カメラに入るので、そこちょっと、どいてもらえませんか?」

前に座る若い女性に失礼ながら声をかけさせてもらった。場所は神社から少し離れた田んぼのあぜ道。実は家や車など、余計なものが写らず、パレードを撮るにはここが一番条件がいい。知っている人は知っているようで、カメラを手にした人が大勢集まっていた。

くだんの女性が振り向いた。文句をいわれるかと思いきや、顔に微笑をたたえている。

「どこから来たんですか? 少しお話をお伺いしてもよろしいですか?」

逆に問われてびっくりした。よく見れば地元新聞社の腕章を巻いている。記者さんだった。

固い感じもなく、印象も良かったので、こちらの正体を明かした。その記者さんはチャグチャグ馬コ自体の取材は初めてとのことだった。馬のことなど、いろいろと話をした。彼女からすると思わぬところに格好の取材源が転がっていた感じだったかもしれない。

こんな出会いがあるのも現場に足を運ぶからこそ。明日の本番は他地区からも大勢馬と人が集まる。楽しみだ。

リハーサルでは近隣をパレードする。本番さながら。

ベストショットを狙ってできたカメラの放列。押すな押すなの大行列ができる。

田植え後の水面に映るチャグチャグの一行。カメラマンはこれが撮りたくて集まる。