第14回 岩手県滝沢市・盛岡市 チャグチャグ馬コ 前編 その2

チャグチャグ馬コは毎年6月第2週の土曜日と開催日が決まっているが、前日にリハーサルがある。参加者全員ではないが、一部関係者は本番と同じ衣装を身に着け、馬には馬装を施し、鬼越蒼前神社に集まる。
日本の原風景
厩舎の一つにお邪魔した。
訪れたのは大坪厩舎。重種やポニーなど20頭近くの馬が飼養されている。オーナーはチャグチャグ馬コに関わること50年。近隣の馬関係の重鎮であり、祭りの代表世話役のひとりである。ご高齢ではあるが、矍鑠とした様子と力強い話ぶりが印象的だ。厩舎のスタッフたちにテキパキと指示を出していく。
馬装が終わり、お揃いの法被を着たスタッフたちに牽かれていく重種たち。厩舎から鬼越蒼前神社まで田んぼのあぜ道を進む姿はいにしえの風俗を今に伝える。一面に広がる田植え後の田んぼ、華やかな馬の行列、山の緑。絵に描いたような日本の原風景は「映える」ことこの上ない。
チャグチャグ馬コは日本の馬文化の中でもかなり規模が大きいほうだが、それでも参加する馬の数は減っている。コロナ明けの2022年に再開したときは約50頭。往時は100頭以上の参加があったという。
神社に到着。馬を繋いで一息入れる。重種はサラブレッドなどの軽種と比べ、基本的には大人しいが、それでも油断はできない。ここまで本番前のリハーサルとしては上々だった。この後は、あすの無事を祈念して神社へのお参りを済ませ、付近を一回りして帰厩する予定になっている。

厩舎でそれぞれの馬に衣装を施す。

厩舎を出て鬼越蒼前神社へと向かう。

途中、田植えの終わった田んぼのあぜ道を進む。
群がるカメラマン
大坪厩舎の一行が鬼越蒼前神社に到着する頃、すでに境内は人々のざわめきで満ちていた。
実はこのリハーサルの際に公式の撮影会が開かれる。腕に覚えのあるアマチュアカメラマンが集まり、そこかしこでカメラの放列が生まれる。市主催のコンテストも兼ねているので、みんな最高の1枚を狙っている。
主役はいうまでもなく重種の血が入った馬たち。華やかな衣装で着飾ったその巨体は見栄えがする。
そして騎乗する子供たちだ。特に幼い女の子には人気が集中する。編笠に絣の着物といった「姉っこ姿」でにっこりと微笑む様子はまるで天使のよう。カメラマンの多くは年齢を重ねた人たちなので、孫を見るような目になる。
かくいう自分もカメラを片手に撮影の輪に加わる。関係者ではあるが、出すぎた真似はしない。あくまで同じ目線でシャッターを切る。
プライバシーに厳しい昨今、このゆるい感じがいかにも古き良き日本のお祭りといった印象で自分は好きだ。
「知ってる人はみんなこの日に来るんです。ベストショットが狙えるから」
関係者の話だ。

幼子の騎乗姿に群がるアマチュアカメラマンたち。

境内はカメラを構えた人でいっぱいになる。

カメラマンはみんな、こんな感じの1枚を狙っている。